大学教員のためのインストラクショナルデザイン入門

2015年度FD講習会が同志社女子大学にて開催されました。その記録は、同志社女子大学『FDレポート』第9号に載せられました。ここでは発行元の許諾を得て、その記録を再録しました。読みやすさのため、一部見出しを追加してあります。

  • 日時 2015年10月21日(水) 15:50~18:00
  • 場所 知徳館 281教室
  • 司会 教育・研究推進センター長所長 余田義彦
  • 講師 向後千春氏(早稲田大学人間科学学術院教授)
  • テーマ 大学教員のためのインストラクショナルデザイン入門」
  • 閉会の辞 飯田 毅 教務部長

司会(余田所長) それでは、時間になりましたので、そろそろ始めさせていただきたいと思います。今日は早稲田大学から、向後千春先生に講師として来ていただきました。

向後先生 よろしくお願いします。2016-04-08 19.29.06

司会(余田所長) 向後先生ですが、1958年のお生まれで、現在のご所属は早稲田大学人間科学学術院の教授です。博士(教育学)(東京学芸大学)です。ご専門ですが、教育工学、特にeラーニング、それから、今日お話しいただくインストラクショナルデザイン、平たく言いますと「教えることのデザイン」です。それから、教育心理学、特に教授法、生涯学習、作文教育、それからアドラー心理学と、幅広いご見識をお持ちの先生です。日本教育工学会、教育システム情報学会などで理事や評議員を務めていらっしゃいます。ご著書は多数で、アマゾンで検索しますと18件ヒットします。今日の内容だけで、このような本も出ております。3冊持ってきましたが、非常に参考になるものがたくさんあります。

受賞歴ですが、最近のもので言いますと、日本教育工学会第27回論文賞、これは2012年で、いわゆる反転学習の設計と実践についての論文で受賞されています。それから、昨年は、第2回WASEDAe-TeachingAwardを受賞されています。少し古いところで言いますと、『メディアサイコロジー―メディア時代の心理学』というご著書で、日本社会心理学会、第1回島田一男賞受賞です。共著者に、本学の諸井先生も含まれていまして、大変つながりを感じます。反転学習という言葉が生れる前から、大学でeラーニングとグループワークを組み合わせた反転学習をされていた先駆者でもありまして、それでとても有名で、シンポジウムのパネリストや研修会の講師などで引っ張りだこの先生です。JMOOCの授業も開講されています。そのあたりの、最先端のお話も聞きたいところですが、今日はさまざまな専門分野を持つ全学の教員が受講する講習会ですので、もう少し、教えることの基本的なところをお願いしたい、それも、できればワークショップ形式でお願いしたいということでお願いいたしまして、大学教員のためのインストラクショナルデザイン入門というテーマでお話しいただくことになりました。以上です。

加賀学長 毎年、このようなFD講習会を続けております。また、京都では、大学コンソーシアム京都というものがありまして、そこにもずっと参加しておりますが、これほどたくさんの先生たちが出席するようになったということは、いよいよFDの時代なのだという感を深くしております。また、授業評価というものをずっとやっております。昔は授業するということで終わっていたのですが、現在は教員も評価される時代になってきたと思います。評価されると、それで点数をつけられるということではなく、それをベースにして自分の授業を改善していくということが、教員の大きな仕事の一つになってきていると思います。2016-04-08 20.35.57

さらに、最近ではあちらこちらでアクティブラーニングという言葉も聞くようになってまいりまして、しょっちゅう審議会等の答申も見ます。今日は向後先生に講師をお願いします。大変、高名な先生と伺っております。今日は2時間ぐらい、結構長いと思いますが、恐らく、ワークショップが入ると飽きないと思います。飽きないと言ったら変ですが、取り組めるのではないかと思いますので、どうぞ、2時間で、最新の知識と技術をいろいろと吸収していただけたらと思います。本日は、どうもありがとうございました。

司会(余田所長) それでは、早速お願いいたします。

向後先生 皆さん、こんにちは。早稲田大学の向後です。よろしくお願いします。今日はインストラクショナルデザイン入門ということでやっていきたいと思いますが、これほどたくさんのFD講習会、参加人数は120ぐらいいますか、初めてです。すごいです。いや、本当にすごい。月1回ぐらいはこのようなオーダーがかかって、文科省がアクティブラーニングということを言い始めたせいなのか、FD研修会・講習会の第2波のような、少し前まで、10年ぐらい前にブームが1回ありましたね。今また、いろいろなところでFD研修会をやってくれというオーダーがかかるようになったので、第2波が来たかという感じですが、それでもやはり30人や40人ぐらいのケースが多いので、これほどの、100人を超える参加者は初めてです。すごく熱気を感じます。

私は、大学の授業では300人教室でやっていますので、実は、これぐらいいた方が燃えるのです。30人ぐらいでは、こじんまりしていていいのですが、やはり多ければ多いほど、自分が教えていることがその人数分だけ伝わっているという感じがあるので、100人よりは200人、200人よりは300人に一遍にやりたいのです。早稲田はマンモス校ですから、そうした授業がたくさんあるのですが、そういう授業であっても、私語は余りさせないで、うまく授業を組み立てていくということが教員に問われていると思います。ですから、小さなゼミであっても、中規模の実習科目であっても、大規模な講義科目であっても、それぞれにいろいろなことを伝える、実質的に伝えられて、学生に知識とスキルを身につけさせる手助けをするということが、それぞれの教員に求められているのだと。もちろん、皆さん方の専門がきちんとあることはわかった上で、それをどのように伝えていくかということが重要になっているのだと思います。2016-04-08 20.36.10

今日は2時間いただきましたが、実はこのプログラムは3時間プログラムで作ってあるので、一部、はしょるところがありますが、皆さんと一緒にやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

今日は、インストラクショナルデザインの考え方と、学習に関する心理学理論、それから授業設計の基本、授業要素のデザイン、このあたりまでで終わってしまうかもしれません。あとは授業の評価や、これからの大学の授業のところは少しはしょらせていただくかもしれません。

このような感じで進めていきたいと思います。この研修の進め方ですが、このような感じでやっていきます。形式は、20分で1ユニットで、私の話は15分で終わらせます。皆さんで、ふせんを使ったちょっとしたワークをやってもらって、それぞれのグループで5人から6人ぐらいいますので、グループの中でシェアをして、それから全体でシェアをするという形で、これが20分で1ユニットという形です。

マイクロフォーマット形式

これは、自分で名前をつけておいたのですが、「マイクロフォーマット」というもので、20分から30分ぐらいの一つのユニットを組み合わせていくことで一つの授業を作ります。授業も、60分授業の場合も、90分授業の場合も、2時間の場合もありますので、そのように考えると、一つのユニットを小さく作っておいた方が、組み合わせが簡単です。この形を使えば、どのような履修科目においても、知識の伝授型の科目においても使えるので、これを、私の授業や研修会では使っています。今日はこの形式そのものを、私の授業の1サンプルとして皆さんにもぜひ応用していただきたいので、そのあたりの視点からも見ていただけるといいかと思っています。2016-04-08 20.36.21

それでは、早速、内容の方に入っていきたいと思います。最初は、インストラクショナルデザインの考え方ですが、ここでとりあえず15分。タイマーをかけておかないと必ずオーバーするのです。ここで、私が20分、30分しゃべってしまうと、あの先生はうそつきだということになるので、一応、これを15分でセットしておきます。

最初は、教えること、学ぶことは非常に日常的な行為なのだということです。われわれはいろいろなことを学んできたわけですが、人から教えられる、例えば母親や父親から何か教えられ、小学校・中学校・高校で先生から何かを教えてもらい、それから、ピアノの弾き方を教えてもらう、あるいは、私はテニスをするのですが、テニススクールに行ってテニスの仕方を教えてもらいますね。ギターの弾き方も教えてくれますし。そういう形で誰かが誰かに何かを教えるという行為が、基本的には、社会をうまく回すためのエンジンなのです。

「教え方」は教えられてこなかった

ところが、その教え方というものを一体われわれは学んできたのかというと、そういうことはないです。学校の中を見ても、何とかの教え方という科目は1個もなかったわけです。では、教育学部に行けばそういう授業があるかというと、これもあまりないのです。先生になるということで、実習校に行って型を習っていくわけですが、実質的にどのように教えればいいのかということは習っていません。私も、自分の子供がいるので、公開授業などで行くのですが、大体はうまくないです。ということで、教え方について、われわれは実質的に学んでいないのだということがわかります。

その教え方を、どのようにすればいいのかということを学術的に考えるのが、インストラクショナルデザイン(ID)という領域です。教え方、それからコース全体のデザインの仕方を専門にしたものが、インストラクショナルデザインということです。この中では、教え手、つまり先生というものは、全体のコースの中のごく一部、一つのパーツにすぎないということです。ですから、ここに立って、少し高いところで私は話しているので、一見この場を支配しているように見えますが、そういう考え方そのものがインストラクショナルデザイン的ではないのです。それは、1980年から1990年ぐらい以前の話で、ティーチャーセンタードという、教師中心でクラスを回すという考え方で、それは終わっています。今は、ラーナーセンタード、学習者中心で授業が展開するのだというものが主流になっています。しかし、学習者中心といっても、実質的にそれはどのようにやればいいのかということは、実は余りよく考えられていません。

例えば、グループワークをすれば「学習者中心だ」、何かプレゼンテーションをさせれば「学習者中心だ」などとかんたんに考える人もいるかもしれませんが、グループワークを回すということはとても難しいのです。特に、これだけ大勢いると、私が一つ一つ見るわけにはいきません。ですから、そのあたりの設計をすること自体が重要です。先生があくせくと働くのではなくて、全体の設計をきちんとやれば、授業が自然にうまく回るようにするということがインストラクショナルデザインの考え方です。ですから、決して、先生が壇上でどんと構えていて全体をコントロールするという立場ではなくて、授業の設計そのものが、そこにおけるルールそのものが、授業がうまく回るようになっていなければなりません。それを考えることが先生の仕事ですね。それがIDの考え方ということになります。

インストラクショナルデザイン

すでにたくさんのインストラクショナルデザインの本も出ております。それから、熊本大学大学院の鈴木克明さんという先生がいますが、余田先生もそうですが、このあたりが大体同じ世代で、当時、余田先生と鈴木先生と私が出会って、それから、これから日本の教育をどうしようかと考えていたのです。もう一人、理科大の清水先生がいましたが、その4人ぐらいで梁山泊のようなものを作って、大革命を起こそうというような─およそ20年ぐらいですか─妄想を抱いていたころがありました。4人それぞれにいろいろな仕事をしてきましたが、だんだん、素地ができ上がってきたと思います。それが、一つは、大学の存在そのものが問われているということと、それから、新しいテクノロジー、端的に言えば、インターネットによるeラーニングです。これが、普通に使えるようになってきました。この条件がそろってきたので、これから教育は急激に変わります。

私の大学ではeスクールという、インターネットで100%、124単位全部取って学士号を授与するコースがありますが、これを、2003年ですから、10年以上前に開設しました。すぐにライバルが出てくると思っていたのですが、なかなか出てこないのです。それは、まだインターネットの破壊力がどのようなものかをわかっていないのです。教室にいると、わからないのです。けれども、家に帰ったり、町に出ると、どれほどインターネットの威力がすごいかがわかります。

大学も、同じように影響を受けないわけにはいきません。既に、アメリカではフェニックス大学、学生数は30万人です。学部と大学院を持っていますし、それから、州のウエスタンガバナンス大学も数万人という単位で学生を持っています。それは、どこにいてもできるわけです。それから、インターネットなら個別指導もきちんとできるわけです。だから、条件は整っているということになります。けれども、先生の責任がまだ問われないのはなぜかというと、先生が教えることと、授業を受けて学生が何かを学ぶこととは、なかなか1対1に対応できないのです。先生がいいから授業がよくなるわけではなくて、たまたま、学生にやる気があって優秀だから彼は勉強するので、それは先生のおかげではないのです。それから、先生の方からしてみれば、全然勉強しない学生がいるということは、彼らが怠けているにすぎないという言いわけは常に成立するのです。

学習者検証の原則

ですから、私の責任ではない、彼らが怠けていることが悪いのだと言うわけです。これで大体の人が納得してしまうのですね。ですので、私がどのような教え方をして授業を作るかということと、学生がどのような学び方をして自主的に自分で学んでいくかということは、なかなか対応がつかないのです。そこにわれわれは常にあぐらをかいているわけです。学習者の責任だと。でも、インストラクショナルデザインは、そんな言いわけを許さないのです。彼らが勉強しないのは全て100%、教員の責任なのです。そういう前提条件からスタートします。ですから、授業を成立させて、学習が自主的に起こるということを、全部われわれが引き受けなければいけないということです。学生がいかに怠けようとも、怠けさせるような授業をする先生が悪いのです。それから、やる気が起こらない学生がいるということ自体が先生の責任だということになります。だから、そこからスタートしようということです。これが「学習者検証の原則」という、インストラクショナルデザインの基本原則です。要は、全部の学習者、私がきちんと教えたかどうかは、きちんと教えたつもりになっているかどうかということではなくて、学習者がきちんと学習したという証拠をもってしか証明できないということです。

熱心な教員がいます。熱心な教員はだめなのです。なるべく楽をしなければ。これからは時短ですから。時短なので、残業してはいけません。なるべく冷静に全体の授業設計をして、このとおりにやっていけば無理なく学習できるようにしなければいけません。けれども、熱心な教員は無理なことを言いがちなのです。学生も忙しいですからね。授業数はたくさんありますし、アルバイトもしなければいけませんし。というわけで、熱心な教員ほど「教えたつもり」の罠にはまります。この「つもり」のところを、元ICUの沼野先生は意図的教育観と言います。「私は教えたつもり」「一生懸命やったつもり」というものを意図的教育観といいます。それは通らないのです。そうではなくて、成功的教育観、要するに、学生の方が学んで、うまく成功しましたという証拠をもって、教育したということが実証されるということです。ですから、正しい教え方はないのです。ただ、効果的な教え方と、そうではない教え方があるだけです。2016-04-08 20.36.35

私は、テニスをやっているのですが、基本的には、テニスは基本は同じだから、どのコーチについても同じようなレッスンができると思っています。しかし、そんなことは全然なくて、AというコーチとBというコーチについたら、天と地ほどの教え方の差があって、それは結局、私がうまくなるか、下手なまま終わるかということで全部証明されてしまいます。そのあたりはシビアなので、うまいコーチのところにどんどん生徒がつくわけです。下手なコーチのところは閑古鳥です。誰もつきません。われわれ教員も、そういう目に遭うべきなのです。けれども、必修科目や授業などのいろいろな外的条件で一応学生数が集まるので、何となく授業をやってしまうわけです。学生は、自分でなければ、保護者が全部お金を払っているわけですから、1コマ何千円などがかかっているわけですね。それに見合うための授業をしなければいけないと思います。それはどのような授業かといいますと、効果的な授業をしなければいけないということです。

改善のサイクル

それからもう一つ、最後に、インストラクショナルデザインの特徴ですが、改善のサイクルがあります。授業というものは毎回、毎年大体繰り返してやるわけですが、1回やると、いろいろなところの欠点が見えます。うまくいったのかどうかは、見ればわかるのです。もしも自分の授業がうまくいっていると信じ込んでいる先生がいれば、それはおかしいです。常に、不足の部分があるのです。今年はこのようなところで工夫したら、その工夫の部分はうまくいったのですが、それ以外の部分で効果が薄れたなどですね。パーフェクトな授業はないので、常に妥協の産物なのです。個別指導をすれば、全体の底上げがうまくいかなくなるし、全体の底上げをしようと思うと、成績トップの人たちが不満を漏らすわけです。このバランスを考えることがわれわれの仕事なので、いつでも改善の余地があるということです。

最終的には、授業の評価をしています。これも、授業評価のアンケートのようなものを取るのでなくて、学生が実質的にどのような知識とスキルを身につけたかということだけで測られています。それが、学生にとっては満足のいく授業であるし、他の友達に「この授業はいいよ」と推薦できる授業だと思います。その評価を見て、それは一体、実施の段階で不足だったのか、あるいは、そもそも科目の内容を開発する段階で不足だったのか、それとも、授業のデザインそのものですね、今日やっているように、講師が15分しゃべって、それからグループワークに行くような授業をデザインしたとしたら、それがうまくいったのか、いかなかったということですね。このようなところで振り返って改善していくということが大事かと思います。

今で14分でした。この長さも心理学的な裏づけがあって、大体、15分ぐらいで飽きるのです。90分間しゃべる先生がいるではないですか。聞いている方は地獄ですよ。そこで、学生はパソコンをやったり、スマホをいじったり、隣の人と私語したりするのですが、それは必然です。彼らは正しいことをしているのです。15分で私の集中力は切れましたということを証明しているのです。ですから、それを叱るのではなくて、それに対処して、こちらのデザインを変えていくということが大事だと思います。

【ワーク】授業で改善すべき点を1つ

そこで、最初のワークをやっていきたいと思うのですが、皆さんが身近で観察する教育、皆さん全員、授業をやっていると思いますので、自分の授業でもいいですし、他の先生の授業をたまたま見てしまったということでもいいのですが、改善すべきだと考えるところを一つだけ提示していただきます。ここが少し気になるので、改善したいということを一つだけ挙げていただきたいと思います。今回は黄色のふせんを皆さんに1枚ずつ配っていただいて、書き込んでいただきたいと思います。その後で、グループの中でシェアをします。書き込み時間は、2分間でお願いします。では、お願いします。常々、このような授業のこの点は少し改善しなければいけないと思っている、ちょっとしたことで結構ですので、思いつくことを一つ書いてください。最初に言いましたように、正解はありません。気になることだけ。

(グループワークの時間)2016-04-08 20.36.47

今で2分間です。大体このペースで書いてもらいます。それほどたくさん書けませんが、メモぐらいは書けますね。それでは、これからグループの中で発表していただきたいと思いますが、これも厳しいきまりがありまして、まず、グループの中でじゃんけんをしてもらって、勝った人が1番目です。時計回りに回してください。持ち時間は1人1分しかありません。ですから、長くしゃべってはだめです。こちらでキューを出しますので、「はい、2人目、行ってください」と言いますので、話を即座にまとめて、その次の人にバトンタッチしていただきたいと思います。では、最初にじゃんけんをお願いします。

(グループワークの時間)2016-04-08 20.37.00

向後先生 どうもありがとうございました。いかがでしょうか。グループワーク中はうるさいですね。基本的に、私の授業はずっとそうですが、うるさいのです。グループの中でしゃべっていても、発表しても、なかなか聞こえづらいという苦情が非常に多いです。でも、それは仕方ないですね。このような感じでグループワークをやります。

グループワークのコツは時間管理

グループワークのコツを言っておくと、たくさんの時間を与えないということです。例えば、グループワークをやるという先生で、よく陥りやすいミスは、例えば30分ぐらい与えてしまうのです。「こういうことをやってください。グループの中でいろいろと話し合って決めてね」というようなことを言って30分与えてしまうのです。絶対にうまくいきません。最初の3分だけは真面目にやりますが、それ以降27分間は全部ぐだぐだです。だから、仕切っていくのは先生の仕事なのです。

私は今、6分間、皆さんのグループワークにお任せしたわけですが、とても楽です。見ているだけだから。見ていて、皆さん、きちんとしゃべってくれてうれしいなと思ってます。このように、自分がしゃべる時間、15分しっかりしゃべったら、それ以外は自分が全体を見渡す時間を作ることをすればと思います。そうすると、こちらも、次は何をしゃべろうかというエネルギーが蓄えられますし。これが、もしずっとしゃべっていると疲れてしまいます。聞いている方も疲れますが、話している方も疲れます。

これをやった後、このまま次に行ってしまうと、何となく不満が残るのです。なぜかといいますと、自分のグループの意見は全部聞けましたが、他のグループの意見が聞けないわけです。ですので、一つか二つのグループを指名して、全体シェアということで発表してもらいます。そのときに、当てやすいグループを当てるのではなくて、きちんと公平に、さいころを振って決めます。これは正十面体のさいころです。0から9まで数字が振ってあるのです。これはAmazonで買えますので、ぜひ、皆さん持っていただきたいと思います。これを振るのです。そうすると、1と6が出ましたので1列めの6という感じで、偶然の確率で、1、2、3、4、5、一番後ろですね。マイクを回してもらって、1人ずつ、どのような話をしたかを簡単に紹介してください。では、お願いします。じゃんけんで勝った人からお願いします。時計回りです。

A 大教室の場合の利用ですが、やはりどうしても教師がしゃべりがちになるということで、どうしたらいいかという話でした。

向後先生 ありがとうございます。

B テーマに応じて、学生の理解や興味を深めるような教材や資料作りを話しました。

向後先生 資料や教材作りですね。ありがとうございます。

C 私の方では、社会科学が一応テーマなので、まず、学生さんに社会事象に関心を持ってもらいたいということがありますので、ビデオなり、新聞記事なり、プリントなり、関心を持たせる方法について悩みます。そんなことでした。

向後先生 ありがとうございます。

D 私からは、まとまった説明をしたいときに、学生が寝ないように、要所要所におもしろい小話を挟むにはどうしたらいいかということを相談していました。

向後先生 小話。ありがとうございます。

E 大教室における私語をどのように扱えばいいかということでお話をしました。

向後先生 ありがとうございます。これは、一つ、グループを選んで、全体シェアで話してもらっただけなのですが、同じようなことを言っているということもわかりますし、自分のグループで出なかった意見もまた拾えるという形で、かなり満足度が高くなります。そして次のセクションに行くという形なので、その前に少しだけ先生からコメントを入れると、またこれも満足度を増すことになります。今で言うと、例えば学生の関心をどのように引いていくかということや、私語が多い、それから、どうしても自分の話が長くなってしまうなどのようなものがあるのだということです。要は、話を短くすれば、私語はなくなります。それから、今のように、私語ではないのですが、学生がしゃべる時間を作れば、私語はしなくなります。そこで満足しますから。1分間だけですが、自分がしゃべったということで満足しますので、それ以外の時間はきちんと聞いていられるということです。でも、それにも限度があるので、15分間でやめるということです。そうすると、集中力が続きます。集中力が続くから、先生の話が頭に入って、その次のグループワークできちんと自分がしゃべれるということです。自分がしゃべれるということで、自己効力感といいますか、自分はすごくできるのだという感じが出ますね。そうすると、またもう1回先生の話を次のセクションで聞いて、きちんと自分の考えをまとめて話したいというようになってきます。

ですから、90分の授業をこのように構造化するということです。15分しゃべって、2分間で何かを書かせて、6分間シェアして、6分間全体でシェアして、そして先生のコメントというように、1分、2分の単位で全体の授業を構造化していけば、無理なく進めることができます。これはすごいマジックなのです。90分間与えられたから、それをどうしようかと考えるから大変なのであって、細かく区切っていけば、どのような内容であっても、このペースで進めれば、うまくいきます。それは、人間がそのようにできているからです。2016-04-08 20.37.17

学習に関する心理学理論

では、次のセクションです。次は、学習に関する心理学理論ということで、難しそうですが、要するに、教えることとは何なのかということです。われわれは何かを教えると簡単に言いますが、例えば、自転車の乗り方を教えることと、交通法規を教えることとは全然違いますし、それから、道路で自転車に乗るときにどんなことに気をつければいいかを教えるということは、全然違う話です。これは3つに分類できると言われています。

ブルームの3分類と言われていますが、まず、運動技能ですね。これは知覚と運動です。これは、今言ったように、自転車の乗り方や、それからタッチタイピングなどは知覚運動学習です。ポイントは、熟達すると、言語情報がでてきません。ですから、自転車に乗るとき、「ああ、バランス取って」などと最初のうちは言いますね。「ブレーキはこうやってやんなきゃいけない」「あ、ペダル踏まなきゃいけない」などと言語情報が入るのですが、そのうち、なくなります。それが熟達化したという証拠です。それが、運動技能を教えるということです。

その次は認知技能です。頭の領域ですが、記憶や理解や問題解決です。これをわれわれはずっとやってくるわけです。小学校の高学年ぐらいから中学校、高校、大学、ずっとやっているわけです。認知技能を教えるということが次です。

最後は態度技能。心の部分で、これまでは態度技能と言っていました。最近は非認知技能という用語が定着しそうです。要するに心の部分で、何かを頑張ろう、粘り強くやろう、集中してやろうというような技能は、知識でもないし、あるいは体の動きでもないのです。心の動きなのです。だから、今この授業を頑張ろうと決心することは、自分で決めなければいけないのです。それもまた技能なのだ、能力なのだということが、最近の心理学の捉え方です。

ですから、大学もそうですが、学校全体として、知識やスキルを身につける以外に、ここで、この時間、集中して頑張ろうという態度を身につけさせる方が実は大事なのです。でも、それは直接教えることができないので、なかなか難しいということです。学級崩壊などもありますが、それはまさに態度技能が劣化したことによる結果ですね。ということで、運動技能、認知技能、態度技能の三つがあるということがわかりました。今、タイマーをかけることを忘れてしまいました。あと10分です。

運動技能の教え方

最初に運動技能の教え方ですが、これはとても簡単なのですが、皆やっていないのです。一つは、スモールステップでやってくださいということです。もう一つは、即時フィードバックしてくださいということです。

スキーを教えられた経験のある人は結構いると思います。いきなりスパルタで、スキー靴を履いて、スキー板を履いて、少し登って、とても緩やかな斜面なのですが、初心者にとってはこの緩やかな斜面が地獄です。なぜなら、立てないのですから。とまることもできません。普通に重心を置いたら、下の方にすうっと行くわけですね。スパルタの先生は「おう、そこから、ちょっとおりてこい」と言って、「俺は、下で待ってるから、見てるから、来いよ」という感じでやる人がいます。そうしたら、すうっと行ったら、とまり方も知らないので、このまま行ったらスピードがどんどん出て危ないということで、自分で尻餅をついてとまるということになります。それは非常に不格好です。「そのように転びながら技能を身につけるのだ」と、その先生は言うわけです。それはだめです。絶対にだめです。

スモールステップ

先生に限らず、教える人は、自分ができなかったころのことを全て忘れているのです。それはきっと嫌な記憶だから忘れるのだと思います。自分ができなかったころは、劣等感にさいなまれるではないですか。ですから、それは記憶から消したいだけです。今できている自分を認めたいのですね。でも、本当の初心者は、その時点のゼロの状態ですから、その人に対しては本当にやさしく扱わなければいけません。それがスモールステップです。最初は非常に簡単なところから入って、誰もがうまくいくように設定するのです。ですから、今のスキーの例で言えば、平らなところで全てやらなければいけません。平らなところですら、少しバランスを崩したらすぐに倒れてしまうわけですから、そこで必ず全員ができるような形で進めていきます。必要最小限の単位のトレーニングをして、少しずつ進めていくということです。

また、自転車を教えることも、子供が生まれると大体、お父さんの最初の仕事になるわけですが、大体、お父さんは教え方が下手くそですから、会社でもそうですが、部下を泣かせたりするのです。子供を泣かすことはとても得意ですから、「パパがここをちょっと持っているから、乗ってみろ」という感じで、「行くぞ、行くぞ」、ひゅっと離して、倒れるわけです。ドギャーンと泣いて子どもは「もう絶対自転車、乗らない!」となるわけです。

それを、うまくやりたいのです。最初はブレーキも使わないし、ペダルも足を乗せません。少し足を蹴って進む、そこで足を着いてとまるというところから始めます。これなら、子供がどれほど臆病であっても、怖がりであっても、うまくいくのですね。1mぐらい進んで、足で立ちます。そうしたら2mぐらい進みます。これがスモールステップです。そうしたら、今度は足でとまることはやめにして、ブレーキを握って、それでとまってから足を着きます。これは本当にスモールステップです。全然失敗しないのです。できる、できる、できる、できる、あ、こげるという感じになってくるのです。これがスモールステップです。

ですから、どんなことを教えるにしても、このスモールステップの原則は守っていただきたいのです。どれほど簡単そうに見える課題であっても、学習者に渡すときには、細かく砕いて、誰もが成功できるようにしてほしいのです。

ところが、先生は自分を偉く見せようと思うものだから、わざと、少し難しい課題を出すのです。失敗させて、「おう、できなかったか。じゃ、俺が教えてやるから」と言うのです。それはだめです。でも、なぜか知らないけれども、やってしまうのですね。先生の仕事は、最初は失敗させないことです。後になって、十分に自信ができたら、半々の確率で失敗させてもいいのです。それはゲームになります。うまくいくときと、うまくいかないときが半々の確率であれば、チャレンジ精神が出ますね。でも、それは最初の段階ではだめです。最初は100%うまくいくように教えるのです。

ここですね。後半は選択的に強化ということがそれです。最初はスモールステップなのですが、だんだん、ステップを大きく広くしていってもいいのです。でも、何でもそうですが、例えば、Aという技能とBという技能をそれぞれ独立に教えて、それからA+Bという技能で連続してやりなさいといようなことになると、急に難しくなったりします。だから、自転車の場合も、こぎながらカーブを切るということは結構難しいのです。真っすぐ行くことと、カーブで重心を移すということは結構難しいのです。このときに、たまたま失敗して転んでしまうこともあります。その場合はもう1回、もとに戻すようにします。「まだカーブは早いよね」と言って、真っすぐで十分に自信をつけさせてからカーブに行くという形です。ステップを上げたら、一時的に基準を緩めるということがそうです。

即時フィードバック

それから、もう一つは即時フィードバックですが、これは、何かをやらせたらすぐに、それはオーケーなのか、あるいは、うまくいかなかったら、どこを工夫すればいいのかというフィードバックを出してほしいのです。それは、教える方が学習者をきちんと見ているということの証拠です。ですから、この段階ではかなり個別指導ということになります。個別指導ではなくて、大勢のところでやらなければいけないということであれば、ペアを組ませてください。ペアを組んでもらって、お互いにフィードバックする、それがいいようです。自分ができないことであっても、他の人ができているか、できないかはわかるのです。

またテニスの話になるのですが、私はテニスを長くやっていますが、下手です。でも、うまいプロと調子の悪いプロとはきちんと見分けがつくのです。なぜでしょうね。絶対できるのですね。なので、フィードバックは、素人であってもできます。うまくいっているということと、ちょっとおかしいということは、きちんとフィードバックできますので、そのようにペアを組んでやってもらうということが大事かと思います。

認知技能の教え方

さて、今の分は運動技能の教え方で、次は認知技能の教え方です。このあたりは全て、知識と理解と問題解決、これです。ですから、小学校の高学年から中学校、高校、大学、ずっとこれなのです。座学でやっていることは全部これです。どんな知識を与えて、どんな理論があって、どのようにしたら問題解決できるかということを、われわれは教えているわけです。

良い説明をする

これの教え方は、ポイントは幾つかありますが、1つ目は、よい説明をするということです。われわれは何かの専門家なので、その専門的知識については膨大なものがあるわけです。でも、それを普通の学生にぽんと渡して、理解できるわけがないのです。ですから、先生の仕事とは、自分の知っていることを伝えるのではなく、自分の知っていることを、いかにそぎ落として一番のエッセンスだけを伝えることです。

だから、90分間、授業中にたくさんしゃべってしまうのは、先生の悪い癖なのです。いや、わかるのです。それで飯を食っているわけですからね。わかります。でも、それは学生にとって何の関係もないことです。あなたが何の専門家であろうが、その学生にとっては何の関係もないのです。そこで、その専門家がやるべきことは、この専門で一番のおもしろいところはここと、ここと、ここだよということで、食べやすくして与えること、提示することです。そうしたら、「すごい。おもしろい」と言ってくれるではないですか。そうすると、私は喜ぶのです。とても喜びます。なぜなら、その専門的知識を認められたし、それでいくらかの貢献をしたことになるわけですから。専門知識を、どのようにそぎ落として一番のエッセンスだけを伝えるかというところが重要なのです。

記憶の仕組みをみると、普通の人はたかだか五つぐらいのことしか一度に覚えられないので、全部を話したとしても、後には何にも残りません。最後に言った言葉だけが残ります。どのようにポイントを絞るかということで、この90分間の授業ではこれとこれとこれだけをエッセンスとして伝えたいということを言って、それを深く伝える、何回も伝える、それからいろいろな例を出して伝えるということが大事です。羅列してもだめです。

素朴概念とバグ修正

それからもう一つは、素朴概念とバグ修正というものですが、大学生になると大体のことは知っています。インターネットもあるし、本も読んでいるであろうし、雑誌・新聞も読むだろうし、人からいろいろな話も聞くであろうということで、大体は知っているのです。しかし、大体知っていることというのは間違っているのですね。だから、われわれはまず、大体知っていることを聞き出して、いかにそれが間違っているのかを言います。それをバグと言います。バグとはコンピュータープログラムの中の間違いですが、素人が思っている知識にはたくさんのバグが含まれているわけです。あなたが今そのように考えている、思っている、信じていることは、どのように間違っていて、将来どのように困ることになるのかということを言ってあげるのです。そのことによって、新しい知識が入りやすくなります。われわれの敵は、学生が知らないことではなくて、間違った知識を持っていることです。間違った知識を落とすことが一番大変なのです。そうすると、新しい知識がきちんと入るので、そこを注意するということです。

領域固有性と転移

それからもう一つは、領域固有性と転移ということですが、これも難しい言葉ですが、専門家であればあるほど、専門用語の中で暮らすのです。世界を専門用語の枠組みで捉えるようになるのです。けれども、学生にはそういう枠組みがないのです。ですから、われわれが何かを教えるということは、ただ知識を教えるのでなくて、われわれが専門としている世界観を伝えなければいけません。その世界観の中にどうやってこの人を引き込むかということが求められています。物理学であれば、物理学の枠組みで世界を見るとこのようになる、心理学であれば、心理学の枠組みで見るとこのようになる、教育学で見れば、教育学の枠組みでこのようになるということを教えたいのです。それが、彼らに何か新しい知識を与えたということになるのです。ただ何を覚えたということではなくて、枠組みが大事です。彼らは、普通の世界、素人世界でしか世界を見ていません。何かを学ぶということは、何かの専門の世界観で世界を見ることができるのです。そこに引き込んでいただきたいということが一つになります。

態度技能の教え方

最後は態度技能ということで、これは、実は余り正解がないのです。インストラクショナルデザインの中でも、これというものがないのです。なぜかといいますと、例えば、頑張る、集中する、原則を決める、自分にルーチンワークを課すなど……。野球のイチローは、自分にルーチンワークを課して、それを日々やっているわけです。それが態度なのです。これを身につけることが非常に重要だと言われていますが、実は、これは直接的には教えられません。なぜなら、ルーチンワークをやれと言うことは簡単ですが、そのルーチンワークをやるということを決断するのは本人自身の問題だからです。

ですから、われわれができることは、この教室においてはどのような態度が価値を持つかということを表明することだけです。例えば90分間の授業であれば、そこに集中してやってくれる人を高く評価したいということを表明するだけです。ぐだぐだやっても意味ないではないですか。そういうことはわかるのですが、そのようにきちんとやってくれる人がいい人なのだということを、先生自身が日々表明するということになります。だから、大学の中で、一つの文化的な価値というものが一貫しているところは強いです。どのような人がその中で価値を持つかということを皆が共有しているということです。ですから、このようなぐあいに、教員同士はなかなか話す機会がないと思いますが、このような機会をなるべく利用して、どのような人たちを私たちは育てたいのか、どこに価値を置きたいのかということを常にコミュニケーションしておくことが大事かと思います。

【ワーク】3つの技能でピンときたもの

次のワークにいきましょう。今、ざっと話をしました運動技能、認知技能、態度技能、それぞれの教え方のポイントを解説しました。全部は消化し切れないと思いますので、一つ、ピンときたものを挙げていただきたいと思います。今度は青のふせんを使って2分間でメモしてください。では、お願いします。

(グループワークの時間)

それでは、2分経ちましたので、グループの中でシェアしたいと思います。先ほどと同じようにじゃんけんしていただいて、一番勝った人から時計回りに1分間ずつ回してください。お願いします。

(グループワークの時間)2016-04-08 20.37.30

向後先生 ありがとうございます。それでは、グループを一つ選んで、全体にシェアして いきたいと思います。さいころを振ります。4 の3、このグループです。お願いします。

F 失礼します。私は、運動技能のお話の中で 「自分ができなかったころを忘れない」という言葉があって、そこで、今、看護技術にかかわることがあるのですが、今なら簡単にできたことを、いざ口で説明しようと思うと難しいと思う部分がたくさんあるので、そこを挙げさせていただきました。

向後先生 ありがとうございます。

G 私は、運動技能のところのスモールステップというところがとても大切だと思いました。やはり、学習者が自分で認識を整理しながら、少しずつステップアップするということは、学習者が認識を整理していけますので、学習者にゆとりができるというところで、オリジナリティーなども生まれてきたりするのではないかと思っているので、大切だと思いました。

向後先生 ありがとうございます。

H 私は認知技能のところを取ったのですが、ここは看護学部の若手教員ですが、つい先日あった基礎看護学実習というもので、たくさん、教員が学生について、教員はすごく一生懸命いろいろなことを説明したのですが、結局は、そのエッセンスや、今まで「看護師ってこうなんだろうな」と思っていたことを、少しずれているものを修正したり、それぐらいしかできなかったのではないかという思いもあって、今日の今のお話でそれをすごく感じました。

向後先生 ありがとうございます。

I 私も、認知技能のところの「言いたいことや話したいことをたくさん話すのではなくて、大切なエッセンスだけを話す」というところが一番印象に残っていまして、私も学生に、自分の言いたいことや話したいことを一生懸命たくさん伝えたつもりなのですが、では、大事なところが最後に学生の中に本当に残っていたのかと思うと、なかなか、それもどうだったのかと思うところもあったので、要らないところはそぎ落として、大事なところだけを話すということがとても大事なのだということを学びました。

向後先生 ありがとうございます。

J 私も認知技能のところで、幼少期から学んでいるけれども、やはりなかなか身につきにくいところというところで、今回このお話を聞いて、ついつい、自分が知っていることをどんどん伝えていってしまうのですが、ポイントを押さえて重要なところだけを伝えるというところや、あえて、学生から知っていることを引き出して、そこの間違いを伝えることによって定着させていくというところが、ピンときたところです。

向後先生 どうもありがとうございました。やはり運動技能ではスモールステップということ、それから、認知技能においてはエッセンスを伝えるということと、あとは相手の誤った概念、バグと言いましたが、バグを見つけ出して、それを修正していくというところですね。学生の力を信頼するといいますか、そういうことが大事です。ある程度までわかっているはずです。ちょっとのバグが入っているので、あとはそのバグを修正していくだけで、こちらが伝えたい内容の知識を伝えることができるのだということです。お互いに最小の努力で、適切な知識、それからスキルを身につけたいわけですね。それが、バグの修正であったり、あるいはスモールステップで教えていく、即時フィードバックでフィードバックをかけるということだと思います。これらのことはゴールデンルールなので、何を教えるときでも通用します。ですので、そういう基本的なところをやっていただきたいと思います。

さて、あと25分ぐらいしかないので。元々、これは3時間プログラムで作ってあるので、全部はできないということだったのですが、もうワンセッションやって終わりにしたいと思います。もし時間が5分、10分あれば、質問をお受けしたいと思いますので、質問がありそうな方は考えていただきたいと思います。

授業設計の基本:ロケットモデル

それでは、最後のセッション、授業設計の基本というところに進めていきたいと思います。最初に説明したいことは、授業の要素ということです。授業と簡単に一口で言いますが、それは部品に分解できます。これは私のオリジナルなのですが、「ロケットモデル」というものを考えました。ロケットにはまずエンジンがなければいけません。

ニーズとゴール

エンジンとは何かというと、学習者が学習しようとするニーズです。これがエンジンになって授業が動くのです。ですが、それぞれの学生のニーズはばらばらですので、それを一つの方向に定めないといけません。それが、教員が決めるべき学習ゴールということになります。ですから、操縦席に当たる部分がゴールです。ニーズはエンジンで、わっとふかすわけですが、方向性は定まらないので、ゴールはわれわれが決めるのです。

学習者の活動

そうすると、この胴体の部分は一番重要な部分ですが、ここが活動になります。以前であれば、ここは教員が何をしゃべるかということだったのです。この活動は教員の活動だったのですが、ラーナーセンタードになったので、学習者の活動、学習者が何をするかということがボディになります。

リソース

一つめの翼がリソースということで、ここは教科書やスライド、そして教員がしゃべる内容です。学習資源とは、教材ということですが、先生がしゃべる内容は教材の一部にすぎないのだということがインストラクショナルデザインでの位置づけです。ですから、それはなるべく短くしたいのです。教員がしゃべる分量を短くすることによって、学習者の活動の時間が長くなるというロジックです。いずれにしても、90分という中で全てのことをしなければいけないので、時間との戦いなのです。ですから、先生がしゃべる分量を短くして、学習者が活動する時間を長くするということです。

フィードバック

もう一つの翼はフィードバックということで、活動させたのであれば、必ず、それに対してフィードバックをするのです。活動させっ放しのグループワークはよくないです。それから、例えば大学ですと、レポートをよく書かせますね。レポートを書かせた後、例えば90点や80点などと点数をつけて返すわけですが、レポートのどこの部分がよいのか、どこの部分を修正すべきなのか、それで最終的には80点ですということをフィードバックしなければいけません。点数だけのフィードバックでは不十分です。多分、点数だけでは、どこがいいのか、どこが悪いのかがわからないので、次に書くレポートも同じように80点です。100点になる可能性はありません。ですので、どこを直すべきなのかということをきちんとフィードバックしなければいけないのです。

先ほどの看護の例であっても、看護の最初の基本技術をやるときに、あなたはどこを修正すればもっとうまくなるのかということをいちいちフィードバックしなければいけないのです。それは個別にしかできないことなのです。なぜなら、いろいろな形で間違えますから。いろいろな形で不十分です。どこが不十分なのかということを見て、それでフィードバックしなければいけません。

ですから、右側の翼のフィードバックは非常に重要です。活動をさせたなら、それに対するフィードバックは必須です。ですから、簡単にレポート課題を出さないでほしいのです。レポート課題を出すのなら、全部に赤を入れるという覚悟を持ってください。それが嫌なら、クイズをやるといいです。クイズであれば、自動採点になりますから。でも、クイズや穴埋め問題を作ることは面倒くさいですね。だから、何々について論ぜよなどという方が簡単なので、レポート課題を出してしまうのですが、それは後で大変なことになるということです。でも、ロジックの通った文章を書かせることは大学教育の一つの目標なので、いずれにしても、文章を書かせなければいけません。でも、その文章を書かせるときには、きちんとフィードバックしなければいけません。

そうすると、普通の授業で、1万字で書いてこいなどというレポートは絶対あり得ません。たかだか1,000字です。1,000字のレポートであれば、A4判の紙に印刷して、1ページで、一目で見られますので、どこをチェックするということはきちんとできるはずです。ですから、私のレポートも最大1,000字です。1,000字以内で書け、それ以上は書くなと。その方が難しいです。だらだら書くよりも、1,000字でまとめる方が難しいのです。でも、1,000字で1回書けるようになったら、それを何回も繰り返せば、長いレポートであろうが、卒業論文であろうが、書けることになります。

最初にニーズをやるのですが、これもいろいろなレベルのニーズがあります。まずは学習者のニーズでやって、Aさんという人が、自分がこうなりたいのですが、今ここまでできるということがあれば、これがニーズになります。例えば、英語はこれぐらい読めるのですが、もう少し難しい英語も読みたいということであれば、それがギャップになって、ここがニーズになるのです。でも、それは個人別にいろいろなニーズがあるのです。ですので、その次の段階として、この学校での、この大学でのこの科目において、どのようになるべきかというニーズ、この設定をすると、このギャップが、学生は今ここまでできているので、このようになりたいというものが決められれば、ここがニーズになります。そのようにして決めていきます。ですから、このようになりたいという知識やスキルのレベルをまずこちらが設定することが必要です。

社会のニーズはこの場では考える必要はないのですが、社会全体で決めなければいけないので、例えば大学の高等教育を卒業した人がどれぐらいの能力があるべきかということは社会が決めることです。これは全然期待されていませんが。企業からは全く。もう本当に困ったものです。でも、これをきちんとやらないと、大学の組織そのものが社会からそっぽを向かれるということになりかねません。

ニーズが決まったら、次はゴールを決めなければいけないのですが、簡単には、そのニーズがここまでできるようになるということが特定できれば、それについてのテストを作ることがゴール分析になります。ですから、最初にわれわれがやるべきことは、この問題が解けるようになることがゴールという、この試験問題を作ることです。そこをいいかげんにすると、適当なことを教えて、最後は適当なレポートを出させて終わりということになります。しかし、これについて1,000字で述べよというレポートの問題ができれば、何を教えるべきかということが、逆算できます。1回目はこれ、2回目はこれ、3回目はこれ、そうするとこの1,000字のレポートはパーフェクトに書けるはずだということが見えます。ですから、そのようにすべきなのです。ゴール分析をするということはそういうことです。ですから、最初にテストを作ってください。

テストは教員の指針

テストは、ペーパーテストに限らず、実技試験のようなものがあるし、シミュレーションであるし、それから、ロールプレイなどをやってもいいかもしれません。いろいろな形のテストがありますので、そういう形でテストを作って、そのテストが、今、ここに30人いるのであれば、30人全員がこのテストを受けて合格することがわれわれの課題になるわけです。このテストを全員に受けさせて、インチキなしで全員合格させるためには、私はどんなことを、どんな手順で教えればいいのかということが、われわれの課題になるわけです。

このように、テストは彼らを評価するものではなくて、われわれ教員の指針なのです。例えば国家試験に合格するということがゴールであれば、それは外側で客観的に決められるので、どのような授業をすればこの国家試験に合格できるかということをすぐに考えられるわけです。そういう態度で、自分の授業であっても、授業枠の範囲内で、テストを作るべきだと思います。そこで、自分がどのような学生を育てたいのかということが明確になると思います。つまり、このテストなりレポート課題がきちんと書けるような学生になってもらうことが私の希望なのだ、願いなのだということを言っているわけです。それは、理念としては常にわれわれは考えているのですが、テストを作ることによって明確化されます。それがゴール分析の意味です。

学習者分析

それからもう一つ、学習者分析があります。これも、いろいろな要因があります。一つの教室に集まってくる学習者、学生はいろいろなタイプの人たちがいるということです。それは、まず学習者の既有知識、これぐらい、全然知らないゼロの人もいれば、30ぐらい知っている人もいれば、50ぐらい知っている人もいます。ここの段階でまずばらばらですね。それから、学習者の態度も、全然やる気なしで来ている人なのか、すごいやる気があって、いつも席の一番前に陣取ってノートを構えているような人もいます。これもばらばらです。それから、学習者の動機づけです。これも、仕方なく来ているのか、それとも自分で自発的に来ているのかということで、動機づけも随分違います。

それから、学習スタイル、これも違っていて、視覚型、書いてあるものを見て、よく理解できる学習者もいれば、話をざっとストーリー的に聞いて理解しやすいという聴覚優位の学習者もいます。私は、スライドを見てわかるように、完全に視覚型なので、スライドなしでずっと話されると、ほとんどわからないのです。仕方ないので、ノートを取るのですが、ノートには丸や線を引いて、矢印を書いて、この人はここからこういう話をして、こんな話をしているのだ、と自分でまとめなければ理解できません。そういう人もいれば、逆に、このような視覚、グラフィックを出されると、わけがわからない、きちんと一から順々に話してください、それを聞いて理解できますという、ストーリーで理解するというタイプの聴覚型の学生もいます。ですから、われわれとしてはどうしたらいいかといいますと、聴覚優位で、話をすることが好きな先生はそのままやってもいいですが、例えば補助的にスライドでキーワードを出しておくなどのような形で補助します。それから、視覚型の人も、基本的にはスライドを見ながら話すしかないです。私はスライドなしで話せない人なので、すぐにこれを見て話すのですが、その場合も、余り話が飛ばないように注意するなど。ぽんぽん飛ぶことが視覚型の特徴です。そのようにして教員自身のスタイルを優先するのではなくて、いろいろなタイプの人がいるのだということを考えて、補助的にやっていくことがいいと思います。

【ワーク】ニーズ分析、ゴール分析、学習者分析

ということで、最後のワークになります。ニーズ分析、ゴール分析、学習者分析の中で、あなたはどれが一番重要だと思いますかということと、その理由を書いていただきたいと思います。赤のふせんでお願いします。では、2分間ぐらいでお願いします。

(グループワークの時間)2016-04-08 20.37.44

余談ですが、このグループワークのお題には正解がないのです。どれが重要だと思いますかと、これは別にどれでもいいわけです。このようにすると、正解探しという活動が少なくなるというメリットがあります。何を書いてもいいのです。

それでは、2分たちましたので、先ほどと同じようにじゃんけんをして、時計回りに回してください。まず、じゃんけんをお願いします。

(グループワークの時間)

向後先生 どうもありがとうございました。それでは、最後の全体シェアをやりたいと思います。さいころを振ります。6の10。後ろから3番目。お願いします。

K 私は学習分析を選びました。教員と学生が共同作業で教育をするという立場に立てば、例えば運動会の親子リレーのような形で、わが子であれば一緒にすぐ走れるでしょうけれども、他の家庭の子と一緒に足を結んで走るということになれば、やはり、その子が足が悪いかどうか、あるいは運動能力がどうであるかということをまずよくわかった上で一緒に走るということを思いました。

向後先生 どうもありがとうございます。

L 私も学習者分析を選びまして、やはり講義にしろ、あるいはゼミにしろ、進めていこうと思うと、つまり、中心である学習者の方々がさまざまでして、世代も性別も違うので、私たちおじさんからは「宇宙人」としか言いようがなくて、しかも多様な宇宙人が集まっている中で、少しでも満足していただく教育をしようと思うと、相手がどのような状況かを知ることができるような仕組みか、そういう制度が欲しいと思ったということです。

向後先生 どうもありがとうございます。

M 私も、学習者分析ということになります。薬学部の教員なので、一応ある程度ゴールが見えています。学生のニーズもある程度見えているということですが、そのギャップが大きい学生が何人か含まれているということで、極端な例ですが、私がエベレストに登ることを目指すような学生が時々入ってくるといって、何とかしてあげたいのですが、何ともできないということが大きな、重要な問題だと思いました。

向後先生 ありがとうございます。

N 私は、ゴール分析を選ばせていただきました。私は薬学部の教員なので、国家試験が一つのゴールであるということはわかっているのですが、ただ、各科目、教科科目ごとに見ていくと、どこにゴールを持っていけばいいのかということが非常に難しいということ、あと、時代によってそのゴールも変化しているようにも思えるので、常に、授業をしているときに、どこにゴールを持っていけばいいのかということを考えています。

向後先生 どうもありがとうございました。「宇宙人」ということがとても印象に残りますね。そうなのです。われわれからしてみれば、学生はほぼ宇宙人です。でも、逆に考えると、彼らからしてみると、教員は完璧に宇宙人なのです。ということで、どうもありがとうございました。残り10分ぐらい、質疑応答で受けていいですか。

司会(余田所長) はい、どうぞ。

質疑応答

向後先生 10分だけ質疑応答を受けたいと思いますので、もし質問がありましたら、お願いします

司会(余田先生) 若本先生。マイク。今、行きます。

2016-04-08 20.37.55

若本先生 英語英文学科の若本と申します。とても刺激的で、明日から授業でやってみたいと思うアイデアがたくさんあって、大変参考になりました。ありがとうございました。今日は、ブルームの三つの分類という形でお話をしていただいのですが、とても有効な、運動技能、認知技能、態度技能という形で、授業を見ていく上ではとても参考になるのですが、向後先生の方で、これだけではできない、この部分でカバーできないと思われるところはないでしょうか。すなわち、この三つで大学の授業を全てカバーして考えることができるとお考えでしょうか。それとも、なければ、このような部分はやはり大学の授業の中ではカバーし切れないというところはないかと思うのですが。

向後先生 ブルームの3分類は非常に大ざっぱなもので、その後、もう少し詳しいものが出て、この認知技能のところが少し弱いのですね。認知技能は、基本的には知識を獲得することと、理解することと、問題解決なのですが、もう少しメタな認知技能として、どのようにして勉強するかという技能が重要です。それは今日は入っていません。ですから、ぜひ先生方にお願いしたいことは、ただ知識を伝授するというだけではなくて、例えば国家試験に受かるためには、この面倒くさい知識を一応は一通り全部さらっておく必要があるということがあるではないですか。でも、それをどのようにして要領よく覚えられるのか、要領よく試験に回答できるように勉強できるのかという、勉強の方法を伝授してほしいのです。先生はそれをやってきているはずです。だから先生なのです。要領のいい勉強の仕方、要領のいい本の読み方、知識の獲得の仕方、問題の解き方というものは、皆さんは努力してやってきているはずなのです。だから先生になっているはずです。それが嫌いな人は先生にならないのです。2016-04-08 20.38.03

だから、自分は当たり前にやってきていて、要領よくできるはずです。しかし、学生はそのことをまず知らないのです。一方、先生は、もし知っていたとしても、それを明示的に教えることは下品だと思っているのです。私はこのように要領よく勉強してきたということをあからさまに学生に教えることを躊躇する先生が多いと思うのです。それは躊躇しない方がいいと私は思っています。どのように要領よくやるのかということをどんどん教えてほしいのです。そうすれば、覚えなければいけないことはこのように時間を短縮して覚えられますし、その時間短縮した分を他の深い理解に充てられるわけですから。そういうことが学習方略です。

若本先生 どうもありがとうございます。

向後先生 ありがとうございます。

若本先生 ただ、先生、その中で、ストラテジーもとても大事だと思うのですが、一方、論理的思考能力や、例えば英文でエッセイを書かせると、どこまでやっても、言い方は悪いのですが、教え切れないといいますか、限界を感じてしまいます。ある意味では、これは学生の問題ということもあるのですが、そういう、技能として教え切れないものも実際に大学教育には多いのではないでしょうか。

向後先生 そうですね、そのように思います。大学に限らず、先生が教えられる部分は、全体を10としたら、3ぐらいまでです。残りの7はやはり本人の力でやっていく問題です。でも、そのきっかけを与えるものとして、先ほど言ったような学習方略の教え方や、それから、粘り強くやって、集中してやったりして、自分をコントロールする能力を「非認知的能力」といいますが、そのあたりを授業の中でそれとなく入れておくことが重要かと思います。だから、先ほどのグループワークにしても、1分間で自分の意見をきちんと言えるという能力が問われているのです。これを余らせたりオーバーしたりしてはいけないわけです。1分間で、適切な分量の情報をお互いに共有できるという能力が試されているので、そういうところから入っていくのです。

若本先生 参考になりました。ありがとうございました。

向後先生 他にありますか。

2016-04-08 20.38.15

丸山先生 日本語日本文学科、丸山と申しますが、その先でして、認知技能のイラストを少し説明していただきたいのですが、よろしくお願いします。

向後先生 これは完全にはしょりました。すみません。これはウェイソン課題という4枚カード問題で、心理学の教科書によく出てくるのですが「、表が母音なら、裏は偶数です」という命題が正しいかどうかを、この4枚のうちの最低限どれをひっくり返して確かめればよいですかという問題です。これがウェイソン課題です。イギリスの大学生でやると、30%ぐらいの正解率です。表が母音であるときに裏は偶数であるということを確かめるためには、どのカードをひっくり返せばよいかというものがこれです。大体、間違った答えは、Eという母音だから、これをひっくり返さないと、もし奇数が書いてあったらだめだということで、これはわかるのです。その次、偶数なので、4をひっくり返す必要があるのではないかと思うのですね。だから、「Eと4です」と答える人が多いのです。これは正解ではないですね。

もうひとつの問題は、A、B、C、Dの4人の人がいました。日本の法律では、二十歳未満の人はアルコールを飲んではいけません。誰が違反していますか、というものです。誰に問えば違反者を見つけられますかという問題ですね。Aさんは16歳ですと言うから、アルコールを飲んだかどうかを聞く必要があるのですね。Bさんは25歳なので、この人は、最初から除外していいですね。聞く必要はないです。Cさんはコーラを飲みました。これもアルコールを飲んでいないので、年齢を聞く必要はないです。除外です。問題はDさんで、ビールを飲んだので、この人は年齢が二十歳未満かどうかを聞く必要があるということで、AとDに聞くことが正解です。これは誰でも解けます。100%の正解率です。

さて、こちらのウェイソン課題ですが、このロジックと全く同じ論理構造をしていて、そうすると、Eと7なのです。7をひっくり返して、もし母音であれば、これは違反しているので、7をひっくり返す必要があるのです。でも、これを解けないのです。正当率30%です。これが領域固有性ということの証明です。これが、この日常的な領域でわかっているロジックであっても、それを難しく抽象的に言いかえたこのロジックにすると、解けなくなってしまうのです。ですから、われわれは日常的論理の中に生きているのですが、これが専門家の論理になると途端にだめになるという例です。これを領域固有性といったのです。ですから、われわれは普通の人たちを自分の専門領域に引き込むことが仕事なのです。だから、ここにいる人たちを、このロジックで考えさせるのです。だから面倒くさいのです。そういうことがわかっていれば、つまり、われわれが言うところの専門用語は日常的にはこのような概念であるということをきちんと丁寧に対応づけていって、最終的には専門領域で頑張ってくださいということを言いたいのです。その説明です。

丸山先生 ありがとうございました。

2016-04-08 20.38.30

向後先生 他にありますか。あと3分ぐらいです。よろしいですか。では、以上で終わりにしたいと思います。お疲れさまでした。

司会(余田所長) 向後先生、どうもお疲れさまでした。それでは、今から閉会の辞ということで、教務部長の飯田先生にお願いします。

飯田教務部長 本日は、向後先生には、お忙しい中、先生の大学の教授会のある日にもかかわらず、本学でお招きしたところ、快くお引き受けいただきまして誠にありがとうございます。今、スライドに出ていますね。『上手な教え方の教科書』(技術評論社)、私も買いました。非常にわかりやすい本です。この本の中に漫画が入っています。いかにわかりやすくするかという工夫が出ている本です。必要な先生がいらっしゃったら、お貸しします。また、本日は先生方にもたくさんご参加いただきまして、御礼申し上げます。ありがとうございました。

私は、先生のお話を聞いて三つの事を考えました。まず一つ目、先生方のパワーを感じました。もう60代のいいおじさんが「じゃんけん、ぽん」をしていました。ふだんはこのようなことはしないと思いますが、しかも、学長もやっていました。これは、非常に楽しく、しかも、いい研修ができたということではないでしょうか。私と同じグループの中村先生によると、「学生の気持ちがよくわかる」と先ほどおっしゃっていました。これはいかにわれわれが授業をしているときに、学生の心を忘れて、いろいろなことを指示しているのか、ということを示しています。私自身も反省しました。二つ目です。ゴール分析、ニーズアナリシス、そして何でしたか。

向後先生 学習者分析です。

飯田教務部長 学習者分析ですね。これは、特に先生方によくやってほしいと思うのです。これがシラバスの書き方につながりますので。さて、皆さん、本日のお話のようにきちんと分析してシラバスを書いていらっしゃるでしょうか。という私自身、教務という立場にいながら、今日、改めて、最初にテストを作るということ、授業の目標を明確にするということを、今日改めて気づきました。最初にテストを作るなら、目標が明確になります。ただ、私の場合は目標を非常に高く持ってしまうので、どうも、いつも苦労してしまいます。本日のお話しを聞いて、来年度のシラバスはすばらしいものになるのではないでしょうか。

最後、三つ目です。お話の中でeラーニングのことにふれていました。実は、昨年度のFD講習会でも、eラーニングのことについてもいろいろと出ていました。私自身も今、実験的に、共通英語の中でeラーニングを使っているのです。その目的は先生の今日のお話とは逆になるのですが、いかに学生に勉強させるかにあります。eラーニングを使って、木曜日と日曜日の夜までに課題を与えておくのです。eラーニングですから、どれだけやったか、何時間かけたか、全部データが出るのです。そうすると、学生の学習時間が増えます。この間、授業アンケートの結果が返ってきて、平均授業外学習時間が1.72時間でした。「3時間以上学習する」学生は25%いました。これはeラーニングをうまく使うことによって学習量を増やすことができるということです。ただし、成果はどうだということはまだ、わかりません。TOEIC等の成績で検証したいと考えています。つまり、eラーニングは授業外学習をコントロールできるということが一つの特徴ではないかと思っています。以上3点、先生のお話を聞いて、考えることができました。改めて向後先生に感謝したいと思います。本日はどうもありがとうございました。

司会(余田所長) はい。それでは、先生方、お疲れさまでした。これにてFD講習会を終わらせていただきます。

向後先生 ありがとうございました。